近年、「ペットショップ なくすべき」「ペットショップ いらない」というキーワードがネット上にあふれています。
日本全国、ショッピングモールやホームセンターなどいたるところにある「ペットショップ」。
そこには、ガラスケースに入れられた子犬や子猫たちが並んでいます。
そんな、犬や猫の生体販売をするペットショップをなくすべきだ、という世論が高まっているのはなぜでしょうか?
それを理解するには、店頭に並ぶ愛らしい子犬や子猫を見ているだけでは分からない現実を、まず知らなくてはいけません。
犬保護ボランティアの立場から思うことを書いていきます。
ペットショップに、子犬や子猫が並ぶまでの過程とは?
まず、ペットショップに並んでいる子犬や子猫がどこから来ているかご存じでしょうか?
全国にチェーン展開している大手のペットショップでは、それぞれ年間に2~3万頭の犬猫を販売しています。
そんな大量の犬や猫を産み出す、親犬・親猫について想像したことはありますか?
日本のペット流通に欠かせない「ペットオークション」とは?
日本のペット流通について語る時に欠かせない、「ペットオークション」、という言葉があります。
ここ数年、「ペットパーク」と呼び方が変わってきていますが、いわゆる、犬や猫の生体の「競り市」のことです。
日本では、野菜や花のように、犬や猫も競りにかけられているという事実を、知らない人も多いと思います。
このペットオークションが誕生したのは、1980年代半ばのこと。それまでは、個々のペットショップが繁殖業者から直接購入するのが主流でした。
ところが、ペットブームの到来により犬猫の大量供給を実現させるため、ペットオークションが全国に出現。
繁殖業者は人気犬種を「大量生産」しペットオークションへ出荷し、ペットショップはそこで大量に買い付けて、チェーン展開した店舗で大量販売する、という現在の日本のペットビジネスのスタイルが形成されました。
日本の犬猫の流通の過程において、現在、このペットオークションは欠かせない存在となっています。
ペットオークションの2,018年の登録数は、全国で合計24カ所。私の住む愛知県に3カ所もあるという事を知り、驚きました。
犬猫の「大量生産」によって起こった問題点
30年ほど前の日本では、繁殖業者とペットショップの直接取引が通常だったため、いわゆる、犬や猫の生体は、「少量・小口」の取引を行っていました。
私が子供の頃、近所のペットショップには生体は置いておらず、犬を飼う時は、そのペットショップのおじさんにお願いをしておき、ブリーダーさんから赤ちゃんが産まれたと連絡が来たら、ペットショップを仲介して我が家へやってきた記憶があります。
ところが現代の日本では、いくつものペットショップがチェーン展開をし、ショップには常時、たくさんの子犬や子猫が「ストック」されています。
それも、ペットオークションの出現によって、大量の犬猫を入荷出来るようになったためです。
繁殖業者としては、人気犬種を産ませれば産ませるだけ、ペットオークションでさばけるため、利益第一で、無理な繁殖をさせる悪い人間が出てくるようになります。
1年に何度も無理な繁殖をさせ、母犬や母猫の体がぼろぼろになるまで産ませるような、悪質な繁殖業者です。
また、ペットショップに並べるには、小さければ小さいほど人気が高く高値で売れる事から、本来はまだ母親の元で育てるべき小さな個体まで出荷をするという、悪い流れが生まれてしまいました。
方向転換もできないような狭いケージに閉じ込められ、死なない程度の餌と水を与えられるだけで、病気になっても満足な治療もしてもらえず、糞尿にまみれてただただ繁殖のためだけに生かされ、生き地獄の中にいる繁殖犬、繁殖猫が全国にたくさんいるのが現実です。
何年も何年も、お日様の暖かさを感じる事もなく、散歩の楽しさも人の愛情を受けることも知らず、病気の痛みに耐え、赤ちゃんを産むたびにすぐに取り上げられ・・・そんな毎日を送っていたら、人間なら自殺していると思います。
私も何度か、元繁殖犬と思われる犬たちの保護に関わったことがあります。
その犬たちは「迷子」として保健所に収容されるのですが、自力で歩けないくらいに病気でボロボロの体なので、遺棄されたのは明らかです。
無理な出産を繰り返したせいで骨はボロボロ。腫瘍がある子、目の病気を放置されたのかすでに失明している子、腹水が溜まっている子、鎧のように糞尿ががっちりと体を覆っている子、重度の腎臓病の子・・・。フィラリア陽性なのは当たり前という状態です。
病気になったら、あるいはもう赤ちゃんを産めなくなったら「不要品」として捨てられるのです。保護され、やっと地獄から抜け出した矢先、たった数日で息を引き取る子もいます。
この扱いは酷いでは済まされない。糞尿にまみれ10歳になっても繁殖を繰り返えされて獣医師が絶句するほどボロボロになり『使えない』と捨てられました。
是非Facebookで詳しく読んで下さい。
⬇︎https://t.co/r2ctgJb4uH#繁殖犬 #悪徳ブリーダー #知って欲しい #犬のいる暮らし pic.twitter.com/OcP51WtcYR— sʜɪʀᴏᴄᴜʀᴏ (@SHIROCURO2018) July 1, 2019
ペットショップはなくすべき、という世論が高まってきた理由
ペットショップはなくすべき、ペットショップは悪、という風潮が高まってきたのは、ここまで見てきたように、劣悪な繁殖実態を生み出した一因に、大手ペットショップの大量仕入れ・大量販売があるからでしょう。
ただペットショップの人たちは、ペットオークションを介して犬を仕入れているため、直接ブリーダーの環境を目にすることはなく、自分たちの商品がどのように「生産」されているかについてはいちいちチェックはしきれなかったのが今までの実態でした。
ところが、悪質な繁殖業者の実態が世に知られるようになり、それによって、大量生産を招いた大手ペットショップへの風当たりも強くなってきたことから、今までペットオークション頼みだった大手ペットショップも、できる限り顔の見えるブリーダーからの直接取引に切り替える動きも出てきました。
大手ペットショップも、生体販売反対の世論の高まりから、現在のビジネスモデルに対する危機感を持っているようです。
そのあたりについては、長年に渡ってこの問題を追い続けている朝日新聞記者・太田匡彦さんの著書に詳しく書かれています。是非読んでみて欲しい一冊です。
ペットショップの売れ残りはどうなるのか?という問題
しかし、ペットショップ反対の世論の高まりは、それだけが理由ではないようです。
もう一つの、ペットショップ反対の大きな理由は、ペットショップの売れ残りは、果たしてどうなるのか、という問題です。
そして売れ残った犬・猫が、悲惨な扱いを受けているという話が色々と飛び交っている事にあると思います。
例えば、
「バックヤードには、病気や見た目が可愛くないという理由で売れそうもない犬や猫が、ケアされず劣悪な環境で放置されている」
「売れ残りは保健所に持ち込まれ処分される(2,013年 改正動物愛護法施行以前)
「引き取り屋に売り飛ばされ、繁殖に使われるか、使えない犬は遺棄される(改正動物愛護法施行により業者の保健所への犬猫の持ち込みが出来なくなった2,013年以降)」
「売れ残りの犬は生きたまま冷蔵庫に入れて死んだらゴミに出す」
など。
ちなみにこれらは実際に、前出の太田記者の取材によって元ペットショップ店員から得られた証言で、そのようなペットショップが実際に日本に存在するのは確かです。
ただ、このような非道な事をするペットショップだけではなく、一匹たりとも殺処分はしない、すべて売り切っている、と明言している大手ペットショップもあり、自社で持つ老犬ホームを持ち、病気になってしまった子はそこで面倒を見ている企業もあります。
ペットショップは 殺処分さえしなければ それで良いのか
殺処分をしないペットショップが存在しているのも事実です。
それでは、犬や猫を殺処分しなければ、それで良いのでしょうか?
うちの近所のホームセンターに、犬猫の生体販売をしているペットショップが入っています。
そこに、商品にしては大きくなり過ぎてしまったヨークシャーテリアがいました。
その時、生後7ヶ月。ケージの前には、「ディスカウントセール」の文字。
店員さんがすかさず私に、「抱っこしますか?」と尋ねてきました。
生後7ヶ月のその子は、とても人なつこく、また、ケージから出される事が嬉しくてたまらないらしく、しっぽをちぎれそうにブンブン振っていました。
私は店員さんに尋ねました。
「この子は散歩には行ってるんでしょうか?」
店員さんは、少し言いにくそうに、
「行ってません・・・」と答えました。
売り物ですから当然です。
ペットショップの生体販売自体の問題点は、そこにあると私は思います。
殺さないから、すべて売り切るからOK、では決してないと思います。
例えばそのヨークシャーテリアは、ペットショップに連れてこられたのが生後2ヶ月頃だとして、もう5ヶ月間も、狭いケージの中で生きているのです。
そこが、その子の世界の全てなのです。
夜は誰もいなくなったショップで眠り、朝が来たらたくさんの人間にガラス越しに覗き込まれるだけの毎日。
犬の一生は短いです。うちの犬もペットショップの売れ残りで、生後8ヶ月までガラスケースの中にいました。
その後なんとか買い手が決まったからといって、決して結果オーライとは言えないのではないでしょうか?
ストレスから、狭いガラスケースの中をひたすらぐるぐる周っている大きめの犬も、先日別のペットショップで目にしました。
ですから、狭いケースに閉じ込めた生体販売自体がすでに動物虐待であるという意見は、一理あると思います。
また、名古屋に本社のある大手ペットショップの取締役は、「大きくなってしまった子も、全国に数十万人いる会員さんに、なんとかして買っていただいているので、当社では殺処分はあり得ません」と言っていますが、野菜ではないのだから、売り切ればいいという訳ではないと思います。
そのペットショップでは、しょっちゅう「○○セール!」と銘打って、犬猫の安売りセールをしており、店舗では、「24回ローンなら月々○○円!」と、購買意欲を刺激するポップが子犬の入ったガラスケースに貼ってあります。
そのペットショップにしてみたら、そのような「企業努力」をして「売り切っている」のだと主張されるのかもしれませんが、誰でもいいからとにかく買ってもらう、という売り方自体が、命を売る商売にはそぐわないと思います。
ちなみに先ほど触れたヨークシャーテリアのショップの店員さんも「今日決めてくれたら少し値段下げますよ」と言ってきました。
私たち保護団体が、レスキューした子たちの里親を決めさせていただく時は、そのお宅の住環境のチェックをし、生活状況を詳しく伺い、本当に託して大丈夫か、慎重に見せていただきます。
犬が生涯幸せに暮らす事ができるか、里親候補の方を見極め、明らかに不安が残る場合は、お断りする事もあります。
それを思うと、ペットショップでの命のやり取りはやはり、どうしても、「軽い」と思えてしまいます。
実際、お金さえ出せば、そんな軽い気持ちで買えてしまうからこそ、簡単に捨てる人間が出てくるのではないでしょうか?
ペットショップはなくすべき という声について まとめ
ここまでペットショップの裏側にある問題、また、ペットショップ自体の問題点について見てきました。
一部の悪質なペットショップを除いては、各企業とも努力をしているのも事実で、殺処分をしないようにしています。
ただ、狭いガラスケースに入れての展示販売や、とにかく売る!という、もうけ第一主義のような商売方法は、命を扱うものとしては疑問を感じます。
それを変えていくのは、やはり、我々が声をあげること、世論の力だと思います。
2019年 改正動物愛護法に期待すること
日本の動物愛護法は、2019年、大きく動きました。
この年の6月に国会で成立した改正動物愛護法では、
- 生後56日以下の子犬・子猫の販売を禁じる「8週齢規制」(ただし日本犬6種は除く)
- 繁殖用の犬猫の遺棄を狙った「繁殖業者へのマイクロチップ装着の義務」
- 動物のインターネット販売規制
など、犬猫等販売業者への規制の他、
動物虐待(殺傷)に対する罰則が「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」に引き上げられました。
その中でも、一番期待すべきポイントは、これまで曖昧な表現でしかなかった、飼養や管理に関する基準を具体的に定める数値規制の導入です。
例えば、繁殖の上限回数や一頭あたりのケージサイズ、従業員一人あたりの上限飼育数など、これまでの日本の法律では具体的な数値が示されていませんでした。
そのため、身動きできない程のケージにぎゅうぎゅうに詰め込まれ、たった一人の人間が150頭もの犬を一人で管理し、母犬の体の状態を無視して産ませられるだけ産ませるような、あり得ない繁殖業者ですら、取り締まることが難しい状況でした。
今回の改正動物愛護法では、この数値規制を環境省令により定めるよう規制されました。
そして現在、施行に向けて話し合いが進められている最中です。
この数値規制が適切なものでなければ、かえって犬や猫達を苦しめる結果となってしまうのでとても重要な局面です。
ところが、少しでも命の量産をしたい業界団体にとっては、この規制は喜ばしくないものだと言えます。
実際、昨年11月の関係者ヒアリングの席で、ペット関連の業界団体「犬猫適正飼養推進協議会」の石山恒会長(この人は、ペットフード協会の会長でもあります)は、信じられない数値案を出してきました。
犬の寝床の具体的数値として、「高さ=体高×1.3倍」「幅(短辺)=体高×1.1倍」とする案です。
とても、犬猫の適正飼養を推進しているとは思えません。
これをそのまま採用すれば、犬にとっては地獄が待っているのと同じ。数値規制がかえって犬達を苦しめる結果となってしまいます。
これについては、YouTuberのせやろがいおじさんが、分かりやすく説明してくれていますので、ご覧下さい↓
対して、超党派の「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」や動物愛護団体が、本当に動物にとって最適な環境を守るべく、各種数値規制の対抗案を出しています。
この春、環境省が素案を出すものと見られています。ペットビジネスの犠牲となる動物達がいなくなるよう、この先の行方に注目したいです。
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